C-press

#131 社会で役立つ放射線 2025年08月20日更新

電子線照射で素材を改質し、 工業製品の機能性を向上 株式会社NHVコーポレーション(京都市右京区)

分子構造を直接変化させて素材の機能を向上

放射線の一種である電子線(Electron Beam:EB)を物質に照射すると、電子がもつエネルギーによって分子構造が変化し、さまざまな特性を得られます。しかも熱や光ではできない加工を可能にし、優れたエネルギー効率で簡単・迅速・均一に化学反応処理ができるため幅広い工業製品に利用されています。

そんな電子線照射技術のパイオニアであり、リーディングカンパニーでもある(株)NHVコーポレーションを訪問し、EB加工部の奥村さんと吉谷さんに、その歴史から仕組み・利用状況などを伺いました。

株式会社NHVコーポレーションの社員
(左)EB加工部 京都EBセンターグループ長 
兼 機能材料事業化推進グループ長
奥村 康之さん
(右)EB加工部
機能材料事業化推進グループ
吉谷 駿さん

_

原子選架橋の利用例

貴社のプロフィールをご紹介ください

奥村さん:産業界では1950年代に放射線を工業利用しようという機運が高まりました。そうした中で、コンデンサやトランスなどの受電・変電設備を製造する日新電機が、いち早く電子線照射装置の開発に着手し、1960年代に装置を完成させました。その後、開発・製造部門が分離独立して「日新ハイボルテージ(略称:NHV)」という会社が設立され、合併や統合を経て2003年に現在の(株)NHVコーポレーションを設立。今では国内2工場と海外2拠点で装置の製造・販売を、国内3カ所のEBセンターで電子線照射の試験や受託加工を行っています。

電子線照射でどのような特性が得られるのですか?

奥村さん:物質に電子線を照射すると、電子は自らのエネルギーを物質に与えながら物質内を通過します。物質は与えられたエネルギー(吸収線量)により、化学反応を起こして様々な特性を発現します。その物質の用途に応じて電子線のエネルギーや吸収線量を調整して、うまく特性を発現する必要があります。
 
用途は4つに大別されます。分子の架橋(橋かけ)による素材特性の向上 別の分子を結合させるグラフト重合による新たな機能の付加 モノマーなどの重合による硬化 細胞にダメージを与える殺菌・滅菌です。

電子線照射装置を保有されていないお客様向けに、受託加工サービスを行っているEB加工部では、その依頼の8割が架橋による素材特性の向上です。

得られる特性の図

_

自動車部品の性能向上に貢献する電子線架橋

電子線架橋の原理や代表的な適用製品は?

吉谷さん:高分子材料に電子線を照射すると、電子線のエネルギーにより分子結合が切れ、不安定で反応しやすい活性点(ラジカル)が発生します。すると分子鎖間でラジカルが反応・結合して三次元の網目構造が形成されます。これを架橋反応と言い、耐熱性や強度などの特性が向上します。

原子選架橋の原理図

代表的な利用分野は自動車部品です。例えば、タイヤは様々なゴムシートや部材を組み合わせて金型に入れ、熱と圧力を加えて成形(加硫工程)します。しかし、加熱時のゴムは柔らかく変形しやすいため、ゴムシート内の補強材(タイヤの骨格となる合成繊維、炭素繊維、スチールなど)が位置ズレする場合もあり、従来はゴムを厚くして対策していました。

そこで、加硫工程の前にゴムシートに電子線を照射してゴムの流動性を抑えることで、位置ズレを防ぎ、同時にゴムシートの厚みも薄くできたのです。これにより原材料の削減、加工性の向上、軽量化による燃費向上も実現しています。特にバスやトラック、工事用車両などの大型タイヤでのメリットは大きいですね。

奥村さん:他にも、エンジン周りなど高温環境に使われる電線被覆を電子線架橋することで、例えばポリエチレン被覆の耐熱温度90℃を125℃に向上させています。

また、内装材や断熱材用の発泡シートでは、気泡の大きさを電子線架橋でコントロールできることから、表面は細かい泡でなめらかで肌触り良く、内面は大きな泡で高い衝撃吸収性を発現させることが可能です。さらに配線の保護、結束、絶縁など様々な用途に使われている熱収縮チューブは、加熱するとチューブが収縮して電線やコネクタに密着する特殊なプラスチックが使われていますが、電子線架橋によって収縮性能を向上させ、熱・振動・衝撃・ほこり・薬品など外部からの影響を効果的に遮断しています。 

_

30カ国以上に450台超を納入している電子線照射装置

貴社の電子線照射装置の特長を教えてください

吉谷さん:装置の原理は、フィラメント電源で発生させた電子を高電圧によって真空中で加速し、窓箔を通過させて対象物に照射します。そこには当社が60年以上にわたって培った「高電圧、ビーム制御、高真空、安全システム」の技術により 高精度で均一なビーム照射高いエネルギー効率(電力変換効率)安定したビーム出力 お客様に応じた設計簡単で安心な操作性を実現しています。こうした特長から電子線照射装置の納入実績は30カ国以上450台超にのぼります。

装置を運転するために特別な資格が必要ですか?

吉谷さん:加圧電圧が1,000kV以上の装置になると、法令により放射線取扱主任者の配置が必要ですが、それ未満の電圧なら不要です。電子線や二次的に発生するX線を自己遮蔽しているので安心して操作いただけます。

京都EBセンターで稼働中の電子線照射装置
京都EBセンターで稼働中の電子線照射装置

セミナーの開催など知識の普及にも注力されていますね

架橋反応を体感できる実験キット
架橋反応を体感できる実験キット

奥村さん:はい。電子線加工技術の普及・啓発を目的に、企業の開発部門や大学の研究者などを対象に見学会やオンラインセミナーを開催しています。また、中学・高校生向けの教材として、架橋反応を体感できる実験キットも製作しています。放射線を未照射の樹脂シートは60℃以上のお湯につけると柔らかくなって伸びるのに、照射したシートは形を保持し、一度伸ばしてもお湯につけると元に戻ります。架橋による形状記憶効果(熱収縮性能向上)を示すもので、次代を担う若者たちがこうした体験を通じて電子線に興味を持ってくれたらと期待しています。

一覧へ