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#134 エネルギーサイト訪問記 2026年09月25日更新

近未来の新エネルギー 「宇宙太陽光発電システム」の開発

一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構(東京都港区)

2050年頃の実現を目指す宇宙太陽光発電のイメージ
2050年頃の実現を目指す宇宙太陽光発電のイメージ
J-spacesystems提供
一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構
一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構
衛星観測事業本部
副本部長 柳川 祐輝 さん 副本部長 柳 幸喜 さん

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宇宙に太陽光発電所をつくり電気をワイヤレスで地上へ送る

近年、宇宙開発の進展を実感するニュースが相次いでいますが、宇宙で電気をつくりワイヤレスで地上へ送電する計画が日本で進められているのをご存知でしょうか。

衛星や打ち上げシステムをはじめとする研究開発に取り組む宇宙システム開発利用推進機構(以下、JSS)では、経済産業省の事業として宇宙航空研究開発機構(JAXA)や多くの企業と協力し、2050年頃の「宇宙太陽光発電システム」(Space Solar Power System:略称SSPS)の実現に向けて様々な実証実験を行っています。そこで、シープレス編集部はJSSを訪問し、衛星観測事業本部・副本部長の柳さんと柳川さんに計画の概要や進捗状況、技術課題などを伺いました。

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資源小国の日本が活用できる自前のクリーン電源

宇宙太陽光発電の仕組みを教えてください

宇宙太陽光発電は、宇宙空間で巨大な太陽電池と送電アンテナを備えた「発電衛星」を建設し、太陽光エネルギーを電気に変換し、さらにマイクロ波やレーザーに変換して地上の受電アンテナへ無線で送ります。これを電力に再変換してエネルギー源にする仕組みです。【図1】

基本構想はアポロ計画が推進されていた1968年、米国のグレイザー博士が、化石燃料に頼らない社会を構築できるアイデアとして提唱しました。その数年後にオイルショックが発生し、クリーン電源の宇宙太陽光発電は社会から注目されましたが、まもなく米国政府が財政緊縮に転じたため開発は一時凍結されました。

このオイルショックを契機に世界各国が宇宙太陽光発電の開発に着手したもののプロジェクトの巨大さや莫大な資金が壁となり相次いで開発を中止。一方で、資源小国の日本はこれを将来の有望な電源と位置づけ、1980年代から研究を本格化しました。そして、大学・研究機関・企業が基礎技術の開発に取り組み、現在では米国・欧州・中国とともに宇宙太陽光発電の技術開発における先頭集団の一角を占めています。

◆宇宙太陽光発電システムのイメージ(100万kW)【図1】

宇宙太陽光発電システムのイメージ
J-spacesystems提供

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宇宙で太陽光発電を行うメリットは何ですか?

◆24時間発電し、利用効率は地上の10倍

最大の強みは、夜間は発電できない地上型の太陽光発電と異なり、昼夜を問わずほぼ24時間発電できることです。大気によるエネルギーの減衰もありません。太陽光は大気を通過する際に水蒸気や雲によって散乱・吸収され、地表に届くまでにエネルギーの約30%が失われます。このような影響を受けない宇宙太陽光発電の単位面積あたりのエネルギー利用効率は地上型の約10倍に達します。

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◆天候の影響を受けない

宇宙太陽光発電は雨天や曇天であっても発電量が落ちることなく安定したエネルギーを供給し続けます。また、JSSが採用している送電用マイクロ波は雲や雨を通り抜けやすく、地上での受電効率も天候による影響をほとんど受けません。

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◆二酸化炭素排出量はゼロ

運用段階での二酸化炭素(CO2)排出量はゼロです。実用化が進めばカーボンニュートラルに貢献するベースロード電源にできるでしょう。

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◆エネルギー自給率の向上と電力の輸出

エネルギー自給率が約16%の日本は、化石燃料のほぼ全量を輸入に依存し、国際情勢や為替変動の影響が避けられません。一方、宇宙太陽光発電は宇宙で調達する”国産エネルギー”のため化石燃料の輸入を減らし、自給率を高められます。また、地上送電網がない遠隔地や離島へのエネルギー供給、大規模災害時における被災地への電力供給にも応用できます。さらに、衛星の軌道付近に位置する国々へもワイヤレスで送電できるため、電気の輸出や災害時の電力支援にも展開できます。

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2050年の実用化に向けて宇宙空間での実証実験へ

計画 はどのようなスケジュールで進めているのですか?

2008年に日本の宇宙開発利用の基本方針となる国家戦略「宇宙基本法」が制定され、その中で推進すべき研究開発のひとつに「宇宙太陽光発電」が記載されました。以降、開発する技術や目標時期などを示したロードマップ(工程表)を策定し、数年ごとに見直しながら計画を進めています。

その中で、2050年の実用化が目標に設定され、JSSは宇宙太陽光発電の中核的な技術である「マイクロ波無線送受電システム」の開発に取り組んでいます。高度36,000kmの静止軌道で発電した電気を効率的にマイクロ波に変換して、地上に設置した受電設備に正確に送電するには極めて高度な制御が必要です。この技術を確立するため、地上での水平方向の無線送電、ドローンを用いた垂直方向の無線送電、さらに高空を高速移動する航空機からの長距離送電へとステップアップを重ねています。【図2】

◆日本のSSPS実証ロードマップ【図2】

日本のSSPS実証ロードマップ

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世界初の長距離無線送電実証実験に成功とお聞きしました

2024年12月、航空機を用いた長距離での無線送電実証実験を長野県諏訪市の霧ケ峰高原で実施しました。高度7kmの上空を時速700kmで飛行するジェット機からマイクロ波を発信し、地上600m四方に配置した13基の受信局(電波を受信するアンテナ、電波を電気に変換する装置、電気信号を変換する装置)に正確に送電し受信できるかをテストするもので、限られた範囲に電波を集中させる「ビーム形成技術」、ビームを狙った場所に当てる「方向制御技術」の完成度が問われます。

4日間で計40回の送電を行い、狙った受信局に正確に送受信が行われたことを確認し、実験は成功しました。航空機と地上との長距離無線送電に成功したのは世界初で、次のステップとなる軌道衛星から地上へマイクロ波を送電する「宇宙実証」へ前進する大きな一歩となりました。

◆ビーム方向制御試験

ビーム方向制御試験
J-spacesystems提供
マイクロ波を 地上の受信局群に無線送電
時速700kmで飛行しながらマイクロ波を地上の受信局群に無線送電
J-spacesystems提供
受信局に届いた電波の形状や強度を計測
13カ所に設置した受信局に届いた電波の形状や強度を計測
J-spacesystems提供

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次のステージであるOHISAMA(おひさま)プロジェクトの「宇宙実証」について教えてください

「OHISAMA」は、宇宙空間から地上へ電気を送る技術を検証するための小型実証衛星の愛称で、高度450kmへの打ち上げが予定されています。

このプロジェクトでは、主に太陽電池(発電)とアンテナ(送電)システムの検証、マイクロ波の長距離ビーム制御、送電エネルギーの評価、さらに大電力マイクロ波が地球の電離層に与える影響の計測などが予定されています。

また、衛星から小型の探査装置を放出し、衛星と装置の間で無線送電を行う世界初の実験も予定されています。

OHISAMAプロジェクトの宇宙実証
J-spacesystems提供
実証衛星OHISAMA
実証衛星OHISAMA
J-spacesystems提供

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技術課題をクリアしながら段階的にスケールアップ

実用化に向けてどのような課題がありますか?

◆ロケットの打ち上げや衛星の建設コストの削減

静止軌道に約2km四方の発電衛星を建設するための輸送・組立コストは、最大の経済的ハードルです。1GW(ギガワット)(原子力発電所1基分に相当)規模のモデルでは、太陽光パネルと送電アンテナの総重量が約1万tに達し、現在の宇宙輸送コストで計算すると、物資を軌道上に運ぶだけで数兆円規模の予算を要します。

この課題に対しては、各国で大型の再使用型ロケットの開発が進められると衛星部品の打ち上げコストを従来の約10分の1に圧縮できる可能性があります。また、JSSが発電と送電を一体化した軽量パネルを開発しました。その他、軽くて曲げられるペロブスカイト太陽電池や極薄の太陽電池シートの開発も進められており、打ち上げ時の容積と重量の大幅削減や高耐久化・低コスト化が期待されています。

◆軽量化を図った発送電一体パネル

軽量化を図った発送電一体パネル
J-spacesystems提供

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◆マイクロ波送電の安全性の確保と人体・環境への影響評価

高出力のエネルギーをビーム状にして宇宙から地上の受電アンテナへ照射するため、航空機や鳥がビームを横切った際の影響や周辺住民・動植物への健康影響を懸念する声があります。

直径約4kmの受電アンテナのイメージ
直径約4kmの受電アンテナのイメージ
J-spacesystems提供

これに対し、送信されるマイクロ波は鋭いレーザーのように1点に集中するのではなく、地上の直径4kmの広い受電アンテナに分散して照射することで、「電子レンジの扉の外側に漏れる電波」と同等あるいは総務省が定める電波防護指針値以下に抑える設計を追求しています。

また、受電位置からわずかでもビームがズレた場合、即時に送電を停止するシステムの研究を進めています。他にも大気中の電離圏をマイクロ波が通過する際の通信障害、携帯電話・気象レーダーが使用する周波数帯との干渉を防ぐため、世界無線通信会議などで専用の周波数帯の確保に向けた調整を進めています。

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◆宇宙ゴミの衝突リスクへの防御対策

運用を終えた人工衛星やロケットの残骸などの「宇宙ゴミ(デブリ)」は大きな問題です。発電衛星のような巨大な構造物は、微小なデブリと衝突する確率が一般の人工衛星に比べて格段に高まります。デブリは直径が数mmでも衝突すれば太陽光パネルに致命的な損傷を与えます。このリスクに対し、巨大な1枚の太陽光パネルでシステムを構成するのではなく、独立して機能する数千から数万個の小型発電・送電モジュールを採用。また、一部が破壊されてもシステム全体の出力低下を最小限に抑える機能、衝突の危険性が高い大型デブリを検知して軌道を自律的に変更するシステムの開発などに注力しています。

これらの技術課題をクリアするのは容易ではありませんが、これまでの実証実験を通じて私たちは大きな手応えを感じています。かつては夢物語と言われた宇宙太陽光発電が現実になろうとしているのです。今後も宇宙で発電した電気を地上で空気のように使える時代の到来に向けて、JSSは発電規模を数kWからGW級へ段階的にスケールアップしながらチャレンジを続けていきます。

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プロジェクトを通じて開発した技術は、様々な分野への応用展開も期待されます。本日はありがとうございました。

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