#133 エネルギーサイト訪問記 2026年02月27日更新
薄く・軽く・曲がり、原材料を国内調達できる 「ペロブスカイト太陽電池」を開発し、 社会実装へ加速
ペクセル・テクノロジーズ株式会社(神奈川県川崎市)
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東京大学大学院工学系研究科を修了(工学博士)、富士写真フイルム(株)主任研究員を経て現職。2004年に横浜市のベンチャー推進策に呼応してペクセル・テクノロジーズ(株)を設立。
色素増感太陽電池の研究過程で、ペロブスカイトを増感剤に使う実験を始め、2006年~2009年に「ペロブスカイトを使った光発電」の論文を相次いで発表(ペロブスカイト太陽電池の開発)。
以降、多くの官民プロジェクトを通じた開発支援、電池性能の向上やコスト低減に注力。クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞、日本化学会賞、応用物理学会賞、山崎貞一賞、ランク賞、朝日賞、日本学士院賞など受賞多数。ノーベル化学賞の候補と目されている。著書に「大発見の舞台裏で!」(さくら舎)など。

東京大学先端科学技術研究センター・フェロー
ペクセル・テクノロジーズ株式会社 代表取締役 宮坂 力 さん
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日本が生んだ画期的な太陽電池の開発者に聞く
日本の電力需要はA(I 人工知能)の普及に伴うデータセンターや半導体生産の増加、輸送機器の電動化などにより増え続けると予測されていますが、脱炭素電源の一つであるメガソーラーの適地は減少し、太陽光発電の大規模な開発は難しくなっています。
このような中で期待されるのが、設置場所が制約されることなく、多様な場所で手軽に発電できる次世代の太陽電池です。様々なタイプが研究される中で、本命視されているのが日本で発明された「ペロブスカイト太陽電池(Perovskite Solar Cell)」です。
そのパイオニアである桐蔭(とういん)横浜大学(横浜市)の宮坂特任教授は、研究室で技術探求と人材育成に取り組むとともに、大学発のベンチャー企業ペクセル・テクノロジーズ株式会社を設立し、ペロブスカイト太陽電池の製品化や開発支援、製造装置の開発などに注力されています。
シープレス編集部はこの画期的な太陽電池の特徴や開発のエピソード、今後の展望などを伺うため、ペクセル・テクノロジーズ株式会社を訪問しました。(本稿のデータは2025年11月の取材時点のものです)
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ペロブスカイト太陽電池とは?
変わった名前ですが、どんな太陽電池なのですか?
ペロブスカイトは1839年、ロシアの鉱物学者ペロブスキーによって発見され、その名は彼に由来しています。特徴的な結晶構造を持ち、この構造を持つペロブスカイト酸化物の中には、電気的・磁気的な性質を示すものもあり、人工的に合成して新しい材料をつくることが可能です。
この「ペロブスカイト構造」を利用し、ヨウ素などの元素を組み合わせて半導体として応用したものが、近年注目されている「ペロブスカイト太陽電池」です。光が当たると、マイナスの「電子」と、プラスの性質を持つ「正孔」が生成されます。これらが結晶内を移動することで電流が生じ、光エネルギーを電気へと変換します。
◆ペロブスカイトの結晶構造

一般的な「シリコン太陽電池」とどこが違うのですか?
太陽電池には様々な種類がありますが、現在の主流は「シリコン太陽電池」で市場の95%を占めています。その仕組みは、性質の異なる2種類の半導体(n型とp型)を貼り合わせ、その2つが接する界面に光エネルギーが入ると電子(ー)と正孔(+)が発生して発電します。
シリコン太陽電池は、耐久性に優れ、変換効率(太陽光エネルギーを電力に変換できる割合)も高いという特徴があります。しかし、シリコンは薄くすると割れるため厚みが必要であり、それを保つためにガラスや頑丈な架台で補強する必要があります。そのため、設置場所は建物の屋根・屋上、地上などに限られます。また、製造の設備が複雑でコストが高いのも課題です。
一方、「ペロブスカイト太陽電池」は、ヨウ素・有機化合物・鉛の結晶構造から組成された薄膜により発電する仕組みで、膜の厚みは1,000分の1ミリ(1マイクロメートル)以下、重さはシリコン太陽電池の10分の1程度です。しかも曲げやすく、薄く光も透過するため、窓や壁、自動車などにも設置が可能となります。そして、薄いガラスやプラスチックの基板に塗布・印刷することで形成できるため、簡単・低コストです。曇りや雨の日・室内の照明など弱い光も光源となり発電ができるため、屋内での設置も可能です。また、使用済みの製品を回収し処理するコストもシリコンより安価です。
◆ペロブスカイト太陽電池の主な特徴と活用例

さらに、日本にとって大きな強みとなるのが、主原料のヨウ素を国内で調達できることです。日本のヨウ素の生産量は世界2位(世界シェア30%)で、他の半導体材料のように海外に依存しなくて済むため、サプライチェーンは日本のみで完結できる点も有利です。
ただ、ペロブスカイト太陽電池は、湿気などの外的要因に弱いため、光を通しながら水分などを遮断する封止技術が重要です。この技術はコストが高く、今のところ耐久性が低いのも課題です。また、材料の一部に環境負荷の一因にもなる鉛が使われているため代替物質の研究が進められています。さらに、大面積にすると変換効率が落ちることも大型化・量産化の課題となっています。
◆シリコン太陽電池とペロブスカイト太陽電池の比較

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ペロブスカイト太陽電池の誕生
どのようにして画期的な太陽電池を開発されたのですか?
私の専門は「光電気化学」です。これは光エネルギーを電気エネルギーや化学エネルギーに変換する電池に関する研究分野で、これまで大学や企業の研究所で「色素増感太陽電池」の開発に取り組んできました。この電池は、化学的な酸化還元反応を利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換するもので、シリコン太陽電池に比べて効率的で再利用可能な色素を活用できる利点があります。
「ペロブスカイト太陽電池」もその延長に位置づけられますが、2000年代初頭にこの結晶構造が発電に使えるという知見はありませんでした。発端になったのは、2006年に大学院生の一人が「色素の代わりに、光を吸収すると発光する性質を持つ人工合成のペロブスカイトを使って太陽電池を作りたい」と発案し、私の研究室に加わったことです。
実験当初の変換効率は1%程度で不安定でしたが、コツコツ改良を重ねて2009年には4%近くまで向上し、研究論文を発表する中で次第に存在を知られるようになりました。そして、国際交流を通じて海外の研究生が私のもとでペロブスカイト太陽電池を学ぶようになり、帰国後に彼らはそれぞれ研究を進め、2012年に英国の研究生が変換効率10%超を達成したのです。
そのインパクトは大きく、色素増感太陽電池の研究者は次々にペロブスカイトに乗り換え、各国の企業も続々と参入し、今や世界の研究者数は7万人とも言われます。そして、変換効率は急速に向上し、現在ではシリコン型と同等の27%超まで開発が進んでいます。

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ペクセル・テクノロジーズ株式会社の取り組み
2004年に設立されたペクセル・テクノロジーズ株式会社についてご紹介ください
ペクセル・テクノロジーズ株式会社は、光電気化学の分野から生まれる光電変換技術の実用化に取り組む大学ベンチャー企業です。当時の横浜市長が産業の活性化を図る一環としてベンチャー企業の設立を呼びかけ、それに呼応する形で設立しました。ペクセル(Peccell)の名称は、光電気化学セル(Photoelectrochemical Cell)から取り、光電気化学を専門に事業展開することを表しています。
事業内容は、ナノケミストリーを基盤とする光エネルギー変換素子の実用化を目指し、「プラスチック色素増感太陽電池」の開発、「ペロブスカイト太陽電池」の研究開発に関わる材料や測定・製造装置などを取り扱っており、これらは桐蔭横浜大学で培った技術基盤に基づいて開発したものです。
官民プロジェクトへの参画や講演活動にも積極的に取り組まれています
さまざまな行政機関や企業などから相談や依頼をいただき、実証試験に協力したり、開発の助言を行ったりしています。講演については専門機関だけでなく、市民向けをはじめ各種団体・学校など幅広く行ってきました。これには意図があって、何よりもペロブスカイト太陽電池の存在や利便性を広く知っていただき、生活者のニーズとして早期の実用化と普及の機運を高め、産業化を加速しなければという強い想いがあるからです。
日本のエネルギー自給率はわずか15%で、エネルギー資源の大半を輸入に頼らざるを得ません。その意味で、電力会社から買う電気だけでなく、各家庭で少しでもエネルギーを自給自足するツールを持つ社会をつくることが重要です。わずかな光でも発電できるペロブスカイト太陽電池の製品が広く普及し、電力消費の5%でも10%でも自前で電気が賄えれば、社会全体で莫大な省エネにつながり、脱炭素社会にも貢献できます。
◆実証試験の一例


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日本の優位性をフル活用して国産エネルギー化へ
日本や海外のペロブスカイト太陽電池の開発状況を教えてください
国内では、化学・電気・電機・自動車部品などのメーカーが、曲げられるフィルム型、窓ガラスに替えて設置できるガラス型、シリコン太陽電池と組み合わせて使うタンデム型などの事業化・量産化を目指し、建物に設置して実証試験を行ったり、量産工場の建設に着手している段階です。2025年に開催された大阪・関西万博では、ユニフォームへの装着やバスターミナルへの設置などで社会実装も遠くないことがアピールされました。
海外では、特にガラス型やタンデム型などの開発が進み、多くのスタートアップ企業が参入して量産に乗り出そうとしている状況です。その中でトップランナーとなっているのは中国で、すでに事業化・量産化を始めています。英国やポーランドなどの欧州勢も社会実装への動きを早めています。
ペロブスカイト太陽電池の今後についてのお考えを
2000年頃まで日本はシリコン太陽電池の技術開発で世界を牽引し、シェア5割を誇った時期がありましたが、中国との低価格競争に敗れ、今ではシェア1%もありません。しかし、ペロブスカイト太陽電池は、材料の国産ヨウ素、日本が得意とする高度なフィルム技術を擁し、フィルム型では耐久性や大型化も含めて日本が技術開発をリードする立場にあります。
第7次エネルギー基本計画でも「ペロブスカイト太陽電池の早期の社会実装を進める」として、2040年の導入目標が約20GW(ギガワット)と設定されています。これは一般家庭の約550万世帯分の年間消費電力に相当します。さらに、高市内閣総理大臣は所信表明で「エネルギー安全保障の観点から原子力とペロブスカイト太陽電池は国産エネルギーとして重要」と演説し、あらためて産業育成を支援する意欲を示しています。
こうした目標を実現するには基板や封止フィルムなどの構成部材のコストダウンが重要で、それに成功すればペロブスカイト太陽電池の価格はシリコン型の半分程度になり一気に普及するでしょう。そのために私も部材のコストダウンの研究開発を加速しています。こうした技術革新を早期に実現して、皆さんが「創エネと省エネを日々実感できる生活」に貢献できればと考えています。


