#133 社会で役立つ放射線 2026年02月27日更新
電子線で飲料用PETボトルを 高速・大量に滅菌処理
澁谷工業株式会社(石川県金沢市)
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(左から)次長/山本 幸宏 さん 柞山 公佑 さん 部長/西 富久雄 さん 江尻 雅成 さん 参事技監/阿部 亮 さん
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世界で初めて飲料用PETボトルを電子線で滅菌する充填システムを開発
生活に無くてはならないPETボトル※1飲料。その生産は高度に自動化されていますが、工程の中で重要なポイントとなる容器の滅菌処理に、放射線の一種である電子線(EB=Electron Beam)が活用されているのをご存知ですか。
従来、滅菌処理は加熱や薬剤で行われてきましたが、熱を加えると飲料の品質に影響を与える心配があり、薬剤では残留リスクが伴うほか洗浄に大量の水を使う必要があります。これらの課題を解決するために開発されたのが、PETボトルに電子線を照射して滅菌する技術です。
ボトリング(液体充填)システムのトップメーカーである澁谷工業(株)は、2006年に世界で初めてこの技術を実用化。PETボトル供給→EB滅菌処理→飲料の充填→キャップ装着→ラベル貼付→箱詰めに至る全工程を自動化したボトリングシステムを国内の飲料メーカーなどに納入しています。
そこで、シープレス編集部はシステムの部品加工と組立を担う澁谷工業(株)EBシステム森本工場を訪問し、EB技術部の方々にお話を伺いました。
※1:PETボトルの原料は石油からつくられるポリエチレンテレフタレート(POLY ETHYLENE TEREPHTHALATE)という樹脂で、英語の頭文字をとって「PET(ペット)」と呼んでいる。
はじめに貴社のプロフィールを教えてください
当社は1931年に蒸した酒米を広げる際に使う麻布の製造販売業として金沢市で創業しました。その後、お客様の要望を受けて1953年に2本の一升瓶の内外を同時に洗浄できる「二連式瓶洗機」を開発し、手洗いで行っていた作業を大幅に効率化しました。そして、この技術を応用して、液体を容器に充填するボトリングシステム分野に本格参入し、清酒・清涼飲料・洋酒、調味料、医薬品、化粧品など対象業種を広げていき、1980年代にはボトリングシステムの国内トップメーカーとなりました。
さらに、1994年に薬剤滅菌によってPETボトルに無菌状態で充填できる装置を開発。これによりPETボトルの加熱殺菌が不要となり、ボトルの薄肉化・軽量化が進められ、お客様のコストダウンに大きく貢献しました。
2025年時点で、PETボトル飲料の「無菌充填システム」は国内シェア80~90%、ボトリングシステム全体の国内シェアでも60%超を占めています。
また、この間にも蓄積した技術を発展させて、レーザー加工機や半導体製造装置、人工透析器などの医療機器、農業設備システムなど事業領域を拡大し、近年では「ロボット式の自動細胞培養システム」をはじめとする再生医療分野でも注目を集めています。
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PETボトル滅菌の必要性とEB滅菌のメカニズム
なぜPETボトルを滅菌処理して無菌化する必要があるのですか?
私たちのまわりには様々な微生物が無数に存在し、中には食品や飲料に悪影響を与える細菌もいます。そのため飲料を充填する環境や容器を限りなく無菌状態にすることが必要です。
微生物には酸性の度合いにより繁殖可能な領域があります。たとえば食中毒に関係するボツリヌス菌などは、高酸性の領域では繁殖しませんが、pH※2が中性に近いところでは繁殖し、強い耐熱性を持ち、熱湯などの簡単な熱殺菌では死滅しにくいという特徴があります。
一方で、カビや酵母などは高酸性の領域でも発生しますが、耐熱性が弱く、簡単な熱殺菌で死滅できるため、昔から行われてきた「高温充填※3」という方式で対応できます。
飲料製品は、2000年以降の健康志向の高まりによって中性や低酸性のお茶や乳飲料などの製品が増えています。これらの製品の滅菌は、PETボトルのように耐熱性のないボトルでは対応が難しいことから、薬剤や電子線による滅菌が必要なのです。
◆製品pH

※2:pH(ペーハー):酸性・中性・アルカリ性の度合いを示す数値。
※3:高温にした内容物をボトルに充填・密封して殺菌する方法で、耐熱用ボトルを用いる。
微生物はEB照射でどのように死滅するのですか?
電子線による滅菌のメカニズムは、直接作用と間接作用の複合的な効果によるものと言われています。
まず、エネルギーの高い電子線が細胞内の核酸に衝突することで直接死滅させます。さらに、細胞内の水分子が電子線による化学反応で分解して生成したOHラジカルなどの活性酸素を発生させることで、間接的に細胞を死滅させる仕組みです。
もちろんEB照射による飲料の香り・味などの製品品質およびPETボトルの材質に影響がないことは、厳密な溶出・官能試験で確認・実証しています。
◆EB(電子線)による滅菌メカニズム

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PETボトルの効率的な全面滅菌や装置の小型化・コスト低減を実現
EB滅菌システムの開発に至るまでの経緯を教えてください
1990年代後半からPETボトル飲料の市場が急拡大し、高温充填に適さないお茶や乳飲料が増加しましたが、当時は過酢酸や過酸化水素による薬剤殺菌システムしかありませんでした。そこで、当社は2000年から次世代滅菌方式の検討を開始し、新たにEB 滅菌システムの研究開発に着手しました。
これを実用化できれば薬剤方式に比べて装置を小型化でき、薬剤の残留リスクを解消できるうえ、洗浄・すすぎ用の水使用量・エネルギー消費量なども大幅に削減できます。しかし、その開発は容易ではありませんでした。
EB滅菌方式を組み入れた無菌充填システムを完成させるには、薬剤方式と同様に製品や飲料を無菌にし、充填環境も無菌にしたうえで充填し、さらにキャップ装着までの一連の工程で無菌環境を長時間維持し、きちんと管理することが重要です。

しかも、産業用の生産ラインですから、毎分600~1,200本の処理能力が要求され、24時間で100万本以上生産し、年間6,000~8,000時間稼働できる信頼性が必要です。
当社の開発陣は、これら多くの課題を乗り越え、先行する他メーカーが挑んでも実現できなかった「EB滅菌方式による飲料用PETボトル無菌充填システム」を世界で初めて実用化したのです。
◆EB滅菌方式

◆PETボトル用EB滅菌の特徴・メリット

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EB滅菌機の仕組みや特徴を教えてください
EB滅菌は、下左図のようにEB照射時に発生するX線やオゾンを遮蔽するため鉛をステンレスで挟んだ筐体(チャンバ)の中で行います。加速器の出力は300kVで、ボトルの側面からEBを照射することでボトルの内外面を滅菌します。ただ、この照射方法では1回の照射だけでボトルの全面を滅菌することができないため、下右図のように照射エリア(下右図の黄色部)を通過する間にボトルを半回転させ、ボトルの両側面からEB照射することで全面を滅菌しています。この方式で1分間に最大1,000本の滅菌処理が可能となりました。
◆EB滅菌機の構成と構造

◆ボトル全面へのEB照射と安定した搬送機構

開発の過程では、ボトルをつかむ口の部分の殺菌が難しく、部品形状の試行を繰り返し、口の部分を面ではなく複数の点接触によってつかむことで、電子線が漏れなく当たるようにしました。また、ボトル内部まで効率よく殺菌できるように、磁石を用いて電子線の向きを変えて口の上部から内部へ電子線を導く工夫も凝らしました。
薬剤方式に比べてどのような効果がありましたか?
薬剤を使用しないので、薬剤の残留リスクを排除でき、後工程の無菌水によるすすぎが不要となるため、生産中の水・蒸気およびモータなどの動力や圧縮エアといったエネルギー関連コストが約30%削減でき、エネルギー消費に伴うCO2排出量も約35%削減できました。これらはお客様に納入したシステムを調査し、6,000時間の稼働を仮定して算出した数字です。
さらに、システムを管理するための項目数を比べても、薬剤方式では薬剤の温度、濃度および量、PETボトルとの接触時間など管理項目が多くなります。しかし、EB方式では、加速電圧、ビーム電流、搬送速度の3つのみのため運用管理の負担が軽減できます。
加えて、実際に微生物がどれだけ死滅できたかの検証についても、薬剤方式では微生物の確認に1週間ほど要しますが、EB方式では線量フィルムを貼って照射すれば殺菌強度(吸収線量)を短時間で確認できるため非常に効率的です。
◆EB滅菌システムによる効果

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小型化や省メンテナンス化を推進して他分野への展開も推進
EB滅菌方式を今後どのように進化・展開させていく計画ですか
当社はこれまでにEB滅菌方式による飲料用PETボトルの無菌充填システムを13ライン納入し、14年以上問題なく稼働し続けています。この間にお客さまのご要望に応じて高速化による処理能力の増強、加速電圧やビーム電流の増大による多様なPETボトル形状への対応強化などを図ってきました。
しかし、今後さらなる普及を図るには、装置の小型化による設置スペースの縮小、消耗品の寿命延長によるメンテナンス期間の短縮が重要なテーマと認識して取り組みを進めています。

小型化についてはEB照射装置と搬送機の構造を見直し、新型機では設置スペースを約30%削減します。また、消耗品については、設計を変更することで寿命を延長し、中間メンテナンスを1年に3回から1回に短縮し、消耗部品交換に伴うライン停止の
期間を大幅に短縮します。
さらに最近では、最新のシミュレーション技術を採り入れて、ボトルの三次元データを基に吸収線量を定量評価するなど、より効率的に装置を設計するための研究開発を大学と共同で行っています。
一方で、PETボトル以外の展開としては、加速エネルギーが150kVの出力が低いEB装置を使って、医薬品の包材の表面滅菌を行うシステムも納入しています。今後は培ったEB滅菌方式による技術を製薬や食品業界へ展開することを検討しています。


